「消えた」の大半は故障ではない
業務用NASのトラブルで多いのは、ディスクの故障ではなく人による削除・上書きです。
- 整理のつもりでフォルダごと削除した
- 同名ファイルを上書きした
- 移動のつもりがドラッグミスで別の場所へ
- 外部の共同作業者が削除した
そして、全員がフルアクセスの環境では、誰がやったのか分かりません。
故障なら復旧業者という選択肢がありますが、誤削除は設定次第で自力で戻せます。 逆に、設定していなければ戻せません。この差は、事故が起きる前にしか作れません。
第一の防御線:ゴミ箱とスナップショット
共有フォルダのゴミ箱機能を有効にしてください。多くのNAS製品が備えています。有効にしておけば、削除されたファイルは即座に消えず、一定期間ゴミ箱に残ります。
「容量がもったいない」で無効にしている環境があります。 しかし、復旧業者に依頼する費用と比べれば、ディスク容量のほうが圧倒的に安いはずです。保持期間と自動削除の設定を調整して、有効にしてください。
スナップショット機能があるなら、こちらも設定してください。ある時点の状態を丸ごと保持する仕組みで、誤削除だけでなく、上書きやランサムウェアからの復旧にも使えます。
ただし、スナップショットもバックアップの代わりにはなりません。 同じNASの中にあるため、本体が壊れれば一緒に失われます(NAS本体が壊れた、バックアップとRAIDの違い)。
アクセス権:消せない人を作る
最も確実な誤削除対策は、「消す権限を持つ人を減らす」ことです。
| 権限 | 与える相手 |
|---|---|
| 読み取りのみ | 参照するだけの部署・共同作業者 |
| 読み書き | 日常的に更新する担当者 |
| 削除を含むフルアクセス | 必要最小限の管理者だけ |
「面倒だから全員フルアクセス」が、そのまま事故の確率になります。
特に注意したいのが次の2つです。
過去のプロジェクトフォルダを読み取り専用にする。 完了した案件のデータは、もう変更する必要がありません。書き込みできる状態にしておく理由がないので、権限を落としてください。
退職者・異動者のアカウントを残さない。 使われていないアカウントは、誤操作の経路にも、不正アクセスの経路にもなります。棚卸しの手順を決めてください。
ログ:後から追えるようにする
ログを取っていなければ、何が起きたか分かりません。
多くのNAS製品には、ファイルの作成・削除・移動などを記録する機能があります。有効にして、保存期間を確認してください。 初期設定では無効、あるいは保存期間が短いことがあります。
ログがあれば、次のことができます。
- いつ、誰が、どのファイルを操作したかを特定できる
- 誤操作なのか、不正なアクセスなのかを切り分けられる
- 同じ事故の再発を防ぐ設定変更につなげられる
そして、ログは事故が起きてから取り始めても意味がありません。
情報漏えいが疑われる場合
削除ではなく、外部への持ち出しやランサムウェア感染が疑われる場合、対応がまったく変わります。
個人データが含まれる場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務になります。速報はおおむね3〜5日以内という短い期限です(業務データが流出したかもしれない)。
このとき、ログの有無が決定的になります。 「何がどれだけ漏れたか」を説明できなければ、報告の内容も本人への通知も曖昧になります。
ランサムウェアの場合、復旧作業が証跡を消すという問題もあります(ファイルが暗号化されて開けない)。復旧を急ぐ前に、証跡の保全について判断が必要です。
バックアップは別の場所に
NASの中の仕組み(ゴミ箱・スナップショット・RAID)は、すべて「同じ箱の中」の対策です。
- 本体が壊れれば、まとめて読めなくなる
- ランサムウェアはNASも暗号化する
- 火災・盗難・水濡れは箱ごと持っていく
NASとは別の場所に、オフラインのコピーを持ってください(バックアップは「取っているつもり」が一番危ない)。
そして、そのバックアップから実際に戻せるかを一度試してください。 取れているつもりで、復元手順を誰も知らない、という状態は珍しくありません。
最低限のチェックリスト
事故の前に、これだけ確認してください。
- [ ] 共有フォルダのゴミ箱機能が有効か。保持期間は何日か
- [ ] スナップショットを取っているか。何世代残しているか
- [ ] フルアクセス権を持つ人は何人か。減らせないか
- [ ] 完了した案件のフォルダを読み取り専用にできないか
- [ ] 退職者・異動者のアカウントが残っていないか
- [ ] 操作ログを取っているか。保存期間は足りるか
- [ ] NASの外にバックアップがあるか。オフラインか
- [ ] そのバックアップから実際に復元できるか試したことがあるか
- [ ] ディスクの状態(SMART・RAIDの縮退)を通知する設定になっているか(NASのディスク交換チェックリスト)
上から順に、費用がかからないものから並べてあります。 権限の見直しとゴミ箱の有効化は、今日できます。
よくある質問
# Q. 小さい会社なので、全員が管理者でも問題ないのでは?
人数が少ないほど、1人の誤操作が全体に効きます。 また、退職や異動のたびにリスクが増えます。権限を分けること自体にコストはかかりません。
# Q. ゴミ箱を有効にすると容量を圧迫します。
保持期間を短くする、対象フォルダを限定するといった調整ができます。 復旧費用と比べて判断してください。
# Q. ログを見ても、専門的で読めません。
平時に一度読んでおいてください。 事故のときに初めて開くと、何が異常なのか判断できません。
# Q. RAIDを組んでいるので大丈夫では?
RAIDは誤削除には無力です。 ディスクの故障で止まらないための仕組みであり、消したファイルは戻りません(バックアップとRAIDの違い、RAID6と業務継続)。