判断の基準は費用ではない
「業者に頼むと高い」——これは事実です。しかし、自力で試した結果、業者でも復旧できなくなることがあります。
判断すべきは費用と成功率の比較ではなく、そのデータを失っても許容できるかどうかです。
- 失っても構わない → 自力で好きなだけ試してよい
- 失いたくない → 試行の前に、失敗したときの状態を考える
この記事は、後者の人が「どこまでなら安全か」を判断するためのものです。
3つの層
操作は、リスクの性質で3つに分けられます。
| 層 | 内容 | 引き返せるか |
|---|---|---|
| 第1層:読むだけ | 状態を確認する。書き込みを伴わない | 引き返せる |
| 第2層:書き込む | 修復、フォーマット、復旧ソフトの実行 | 引き返せないことがある |
| 第3層:物理的に触る | 分解、基板の操作、部品交換 | 引き返せない |
重要なデータがあるなら、第1層で止めてください。
第1層:やってよい確認
書き込みを伴わないので、状態を悪化させません。
- 「ディスクの管理」でファイルシステムと容量を確認する(ドライブが「RAW」と表示される)
- BIOS/UEFIでドライブが認識されているか確認する
- SMART情報を読む(SMART情報の見方)
- 別のケーブル・別のポート・別のPCで試す(外付けケース・ドッキングステーションの選び方)
- 音を聞く、発熱を確かめる
- 暗号化されていないか確認する(BitLockerの回復キーを求められた・紛失した)
この範囲の確認だけで、原因がかなり絞り込めます。 そして、業者に相談するときの材料にもなります(復旧業者に伝えるべきこと)。
ただし例外があります。 異音がしている場合、確認のための通電すら避けるべきです。次の節を先に読んでください。
止まるべきサイン
次のいずれかがあれば、層に関係なく手を止めてください。
- カチカチ・カリカリという規則的な音(HDDのカチカチ音、HDDから異音がする)
- 異常な発熱
- 焦げた匂い
- 認識したりしなかったりを繰り返す
- コピー中に何度も止まる、極端に遅い
- 水濡れ・落下の直後(外付けHDDを落としてしまったとき、水濡れした機器への対応)
これらは物理障害のサインです。 通電するたびに状態が悪化する可能性があり、「あと1回だけ試す」が致命傷になります。
物理障害と論理障害の違いは論理障害と物理障害の違いにまとめています。
第2層:書き込みを伴う操作
ここから引き返せなくなります。
# 絶対に実行しないもの
- 「フォーマットする必要があります」への「はい」(「フォーマットする必要があります」と表示されたとき)
- 「ディスクを初期化しますか」への「はい」
- Windowsの「このPCを初期状態に戻す」(Windowsが起動しない)
- NASのディスクをPCに繋いだときの初期化(NAS本体が壊れた)
「修復」「初期化」「新規作成」と名のつく操作は、原則として実行しないでください。
# 条件付きで検討できるもの
chkdsk:論理障害で、物理障害の兆候がまったくない場合に限ります。判断基準はchkdskを実行する前の判断基準にまとめています。RAWの状態では実行しないでください。
ディスクユーティリティのFirst Aid(Mac):同様です(Macのディスクユーティリティを実行する前の判断基準)。
復旧ソフト:読み取り専用でスキャンするタイプであっても、動作させること自体がドライブへの負荷になります。物理障害があるなら実行しないでください(復旧ソフトを使う前のリスク)。
「修復」機能は使わないでください。 読み出して別の媒体に保存する機能だけを使います。
# 復旧ソフトを使う場合の鉄則
保存先を、元の媒体にしないこと。 これに尽きます(復旧したデータを同じ媒体へ保存してはいけない理由)。
可能なら、先に媒体全体のイメージコピーを取ってから作業してください。 元の媒体には触らず、コピーに対して試行すれば、何度失敗してもやり直せます。これが自力対応で最も安全な進め方です。
第3層:物理的な操作
分解、基板の交換、チップの取り外し——これは自力の範囲外です。
- HDDの内部はクリーンな環境でなければ開けてはいけません。空気中の埃がディスク表面を傷つけます
- 基板の交換は、同型番でも個体ごとの情報が異なるため、単純な差し替えでは動きません
- USBメモリの半田付けは、基板のパターン剥離やチップの損傷を招きます(USBメモリのコネクタが折れた・曲がった)
「YouTubeでできそうに見えた」は、うまくいった例だけが公開されているからです。
判断のまとめ
重要なデータがある場合の順番。
1. 第1層の確認をする(異音があればここも飛ばして停止)
2. 物理障害の兆候があるか判断する
3. 兆候があれば、そこで止めて業者に相談する
4. 兆候がなく、論理障害と判断できるなら、イメージコピーを取ってから第2層を検討する
5. 第3層には踏み込まない
費用感は[データ復旧の費用相場](/posts/data-recovery-cost-guide)、業者選びは[データ復旧業者の選び方](/posts/data-recovery-vendor-selection)にまとめています。 初期診断が無料の業者もあるので、「まず相談してから決める」という選択肢があります。
そもそも試行しなくて済むように
この判断が必要になるのは、コピーが1つしかないときだけです。
別の場所にコピーがあれば、壊れた媒体は諦めればよく、この記事の内容は関係なくなります(バックアップは「取っているつもり」が一番危ない)。
SSDは前兆なく壊れます(SSDは前触れなく死ぬ)。「壊れそうになったら退避する」という戦略は、もう成り立ちません。
よくある質問
# Q. 復旧ソフトは無料のものでも大丈夫ですか?
有料か無料かより、何をするソフトかが重要です。 読み取り専用でスキャンするものか、書き込みを伴う「修復」機能を含むものか。後者は使わないでください。
# Q. イメージコピーはどうやって取りますか?
専用のソフトが必要です。ただし、物理障害があるドライブでは、イメージコピーの作成自体が負荷になります。 異音がある場合はこの方法も避けてください。
# Q. 業者の初期診断は本当に無料ですか?
業者によります。 診断後にキャンセルした場合の返送料や、開封後の扱いを事前に確認してください(データ復旧の見積もりを申し込む前に確認する項目)。
# Q. 自力で試したことは業者に言うべきですか?
必ず伝えてください。 何を試したかで復旧の方針が変わります。隠すと、業者が誤った前提で作業することになり、結果的に自分が損をします。